「クライエント中心に考えていますが難しいです」どうすればよいのですか?

クライエント中心の作業療法アプローチを考えようとしている学生が「患者中心に考えているのですが、SVに『実習生本位の考え方ですね』と指摘されます。患者さんのことを患者さん中心に話をしているのにどうして学生本位だと言われるのでしょう」と言ってきます。

彼らのプレゼンはこうです.
 観察からの患者さんの問題点は、対人交流が少ないこと、現実的対応が出来ないこと、思路の障害があることです。患者さんとの面接でも、人とスムーズに交流がもてますかと尋ねると、「上手くできません」って患者さんも言いました。それからいろいろ話をしていると現実的に物事を考えたり対応したりすることが出来ないみたいで、認知や思路に問題がありそうでした。このことを看護師さんにも確認したら同じようなことを言っていました。ということで、患者さんの問題を以上のように判断しました。そこで、目的を、交流が上手くもてるようになるために先ずは学生との会話を楽しめること、その中で現実的に物事を考えたり対処したりできるように援助していきたいと思います。

私の返答は大体つぎのようなものです。
 患者さんの言葉に耳を傾けていますか? 彼らはどんな風に語っていますか? 言葉だけではなく、表情や語り全体のニュアンスはどうでしょう。患者さんの語りをそのままに聴いてください。「傾聴」といいます。そこから、学生自身が思ったことを書き留めてみましょうか。学生が思ったままに書けばよいのです。患者さんを評価してやろうとか専門用語に当てはめようとする必要はありません。話が聞き取りにくくて気を遣ったとか、回りくどくてしびれを切らしそうになったとか、嬉しそうに笑顔で話をしてくれたのでこちらもほっとしたとかそんなことで良いのです。
 患者さんの言葉が聞き取れずに気を遣ったのなら次の機会にでも「会話の時に聞き返されたりして嫌な気持ちになったり、話が進展しないことがあったりしますか?」と聞いてみることがあってもよいでしょう。
 患者さんの話がとても回りくどいとき、学生はどうしたいと思いましたか?先周りして答えを尋ねたりイライラしながら待っていたりしましたか?あるいは予定していた時間を過ぎてしまうことが気になるとか?患者さんと話をすることのある周囲の人も同じような感覚を持つことが有るのでしょうか。そんな会話場面を患者さん自身はどう感じたり考えたりしているでしょうかね。感じたままの中に素の自分を漂わせてみたらどう感じるでしょうかね。
 他にも、患者さんの笑顔はどうでしょう。学生にとって安心できる笑顔であったのならすばらしい対人関係スキルを行使できているという風に考えることも出来ます。いつでも笑顔で話をしていますか?OTの時は?他の患者さんとは?じゃ、困って助けを必要とするときにはどんな表情ですか?
 患者さんがどんな風に感じたり思ったりしているかを彼の言葉で語ってもらうことが大切です。患者さんに話を聞き出してゆくのが難しいと思うなら、別の情報収集の方法として担当の看護師さんはどんな風に思っているのか聴いてみるのも良いですね。生活全体を見ているから有意義な情報が得られるはずです。それを看護部門からの情報としてください。もちろん、学生が聞き出しにくいと感じた理由をはっきりさせておくことも大切な情報となります。

 この後は、OT場面や一般的な生活場面での様子を観察するときの視点の話になり、持っている心身の機能が上手に使えているかとか認知的エラーの出現が状況などに依存するような特徴があるかを観なさいとか、生活や活動するためのスキルとしての能力をどのように行使していたり出来なくて困っている様子だったりするのかを観なさいとか、周囲の環境や条件を整えることによって改善したり有意義なものになるのであればそれを具体的に特定してゆけるようにあれこれ試しなさいと指示することになります。また、患者さんを観るときには客観的な指標として物理的条件(時間、場所、人や物の環境条件)に枠組みを与えて一定の条件下で観察するように指導します。1時間のうちに何回とか、注意を払う対象物が同時に○個とかといったようなことです。そして、これらの情報を元に学生は患者さんと話をしたり作業活動の場面で関与したり援助したりしてゆくことになります。そしてもちろん、学生はICFの枠の中でこれら全体を表現しまとめていくのです。


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