実習初期のプレゼンテーションでこのようなテーマを持ち込む学生は多いものです。ほぼ100%の学生が「患者さんとのコミュニケーションのために心理的距離を適切に取りたかったけど出来なかった」とか、「コミュニケーションを上手く取りたいのだけど難しかった」などと報告してきます。
報告を聞いていてわかるのは、学生自身の内側で感じたり起こっている感情や認識の仕方について注意が向いていて学生の抱えている不安をプレゼンテーションしているということです。
多くの場合、こうした学生の殆どは自分の内側で起こっている事だけに注意が向いてしまい、患者さんの側の心理的距離の取り方やコミュニケーションスキルがどのように表出されているのかとか、これらのベースとなっているであろう患者さんにとっての自身の身体イメージやボディシェーマとか、認知の様式、さらにはこれらの結果としての表出プロセスなどについては全く注意や感心が向いていないのです。
実習初期の学生が、患者さんとのコミュニケーションをテーマにしながらも自分側の事についてしか注意や関心が向いていないので、中には学生自身の抱えている不安が増長され「私は精神科に向いてない」とか「人を相手にする仕事に向いてない」と考え出したり相談してくる学生もいます。
しかし、コミュニケーションについて考える場合に、学生自身ののコミュニケーションスキルや表出までのプロセス、特徴などについて感じたり悩んだり理解を深めていくことはとても大切な事でラッキーなことでもあります。それによって学生自身の体験を通して「コミュニケーションとはなにか」について洞察を深めることができますし、学生自身の内側に不安や失敗したという感覚が有ればその原因や要因を推定したり仮定しながら対処することが可能となるからです。それに、なによりも自分自身の内側で実際の情緒的・身体的(生理的)体験=自分自身とのコミュニケーションを通しながらそのプロセスに感じ入るわけですから体験による学習としては絶大なものがあるわけです。
ところで、患者さんとのコミュニケーションをテーマに取り上げたい時には、患者さん側のコミュニケーションスキルや表出までのプロセス、特徴などについて理解を深める事が大切になります。学生自身の体験から理解した内側でのコミュニケーションプロセスはそのまま患者さんにも当てはめる事が出来るので同じようなプロセスが患者さんの内側で体験として起こりうるだろう事は想像に難くありません。
患者さんは、学生のどこにどのように反応や対処して表情や言葉を変化させたのでしょうか?あるいは、学生に対してではなくて時間や場所、タイミング、その直前の心理的状態によって表情や言葉を表出したのかも知れません。また、或る患者さんは気分障害のためにかなり偏ったシェーマを駆使しているかも知れませんし、認知や思路の問題を抱えているため極度に単純化されたり抽象化されやすいプロセスを持っているかも知れません。
学生と患者さんの間では、それぞれの特徴や個性を持った者同士がやりとりをするなかでは関係性(複雑性と言っても良いでしょう)が存在します。自分の内側に起こっている不安はそれとして少しだけ脇の方に置いておきながら、患者さんのコミュニケーションスキルの様子を肌身に感じながら観察していくのが良いでしょう。
また、作業療法では患者さんとの関わり合いに作業活動を用いますから、患者さんのコミュニケーションは学生との間ばかりでなく作業そのものとの関わりの持ち方や、そこでの患者さんの内側のプロセスなどについて観察や評価をしていく事になります。
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