急性期の錯乱状態や慢性経過の急性憎悪初期への作業療法

 

精神症状を治す中心的アプローチは患者さんの持つ自然治癒力を最大限に引き出せるよう期待しながらの薬物療法にあると考えて下さい。

精神科での中心的治療は薬物療法と精神療法といわれ、作業療法は精神機能に対してのアプローチとして行われることが多く、精神機能に由来する能力に対して援助や支援を行うことで彼らの持つ自然治癒力や適応能力を健康的あるいは療養生活により効果的な形で最大限に発揮させようと考えるのです。

多くの患者さんはある程度の症状や機能障害を持ちながら生活をしています。作業療法では症状や機能障害を持っていても、患者さんなりの生活が営めるように援助します。このことは、患者さん本人にとってのリアリティー(現実感とそこでの体験)を大切にしながらより健康的生活がおくれるように援助することを意味し、患者さんにとっての健康的生活とはどういうことなのかを査定し把握できる技術が必要となります。

身体因に由来する意識レベルや認知能力の混乱状態にある患者さんへの作業療法のようなボトムアップ・アプローチは効果が期待できないという考えは一般システム論(GST)にもとづく考え方ですが、注意して欲しいのはこうした精神機能の上位システムとしての意識レベルや器質的大脳機能の混乱状態に直接的効果はないということであって、機能の安定化や学習効果などに影響を与えられないというわけではありません。脳や身体の上位システムそのものへの直接的アプローチはボトムアップ・アプローチでは解決できないという原則がGSTにはあるということです。

間接的に上位システムにとって効果的な環境を整え自然治癒力を待つことはできるのですが、トップダウン式に大脳や身体に直接的に作用する薬物などに比べると遙かに効率が悪いのです。こうしたことから急性期の錯乱状態や慢性経過の急性憎悪初期には身体療法の効果を期待し、積極的に作業療法によるボトムアップ・アプローチは行うべきではないと考えます。また、作業療法に限らずいろいろなボトムアップ・アプローチによる介入を行うことは薬物療法の効果判定を困難なものにするので禁忌であるといっても過言ではないでしょう。

こうした時期の治療的介入は、薬物にもよりますが薬理作用そのものが安定し出す数日〜1週間、あるいは身体が薬物に適応反応を起こす2週間程が作業療法介入の是非を判断する時期になると思われます。

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