実習生としての準備のポイントと、評価の構造の考え方
                      加世田病院 OT 2025.4
 
【1】準備しておくべき基本的知識
? 対象疾患に関する知識
担当症例の主疾患(例:統合失調症、うつ病、双極性障害など)
病態、診断基準、典型的な症状、予後
薬物療法とその副作用(例:錐体外路症状、眠気、意欲低下など)
? 精神科OTの目的と役割
精神機能の回復支援
生活リズムの整備
対人関係や社会参加の促進
就労・復学への支援など
? 評価の枠組み(後述の構造で整理)
 
【2】評価構造の基本的な考え方(順序と内容)
STEP 1:情報収集・面接準備
カルテ(病歴、生活歴、家族構成、現在の問題点など)
多職種からの情報(看護、Dr、PSWなど)
面接の目的設定(何を知りたいか?)
STEP 2:初期面接・観察
ラポール形成を意識
相手のペースに合わせた会話を
受け答えの様子(興味、集中力、表情、言語内容)などを観察
STEP 3:評価ツールや枠組みを用いた整理
? 評価の枠組みの例(OTIPMやMOHOが使いやすい)
項  目 内容の例
生 活 歴 育ち・学歴・仕事・家族・趣味など
疾 患 歴 発症時期・入退院歴・服薬状況
精神機能 注意・記憶・思考・気分など
身体機能 姿勢・動作・体力・器用さなど
作業遂行 ADL(食事、入浴など)・IADL(買い物、料理など)
対人関係 関わり方・コミュニケーション力
環  境 住環境・支援者の有無など
? 具体的評価ツールの例
生活技能評価(Assessment of Living Skills)
作業遂行能力検査(AMPS)
GHQ、SDSなどの心理的評価
作業観察・作業記録(例:手工芸、調理などの活動中の様子)
 
【3】実習生としての工夫ポイント
? 記録のこまめな整理
面接・観察後はすぐにメモ
発言や行動の具体例を交えて記録
? 教員・指導者に積極的に相談
自分で考えたことをベースに、「この観点で見てみたのですがどうでしょうか?」と尋ねる
? 評価の目的を常に意識
「この情報は、今後の作業療法プログラム立案にどう活かせるか?」を考える
 
【4】考え方のコツ:OT評価は「未来の生活支援のための地図」
評価とは単に状態を知るだけでなく、
「この方が、どうすればもっと自分らしい生活を送れるか」 を探るための出発点。
「何ができるか」「何に困っているか」だけでなく、
「何を大切にしているか」
「どんな生活を望んでいるか」 に目を向ける視点も大切。
 
 
 
例)統合失調症の慢性期陳旧例の場合
 
統合失調症の慢性期・陳旧性の症例で、病院内では安定して過ごしているというケースの場合、評価のポイントは「現状の安定性をどう捉えるか」と、「今後どう生活の幅を広げられるか(または維持できるか)」という視点になる。
 
【このような症例の評価で重視されるポイント】
評価項目 ポイント
病識・服薬意識  服薬継続の意欲や理解、自己管理の程度
精 神 症 状  陰性症状(意欲低下・感情鈍麻・会話の乏しさ)の程度
認 知 機 能     注意・記憶・遂行機能など、作業にどう影響するか
日課・生活リズム 起床・就寝・食事・入浴の自立度、整っているか
作 業 耐 性     作業への集中力、持続時間、疲労感の出方など
社 会 的 ス キ ル 他者との距離感、会話のキャッチボール、表情・非言語的表現
退院や地域移行の意識 「外に出たい」という意識の有無や、その現実性
興 味 ・ 関 心     活動への参加意欲、楽しめること、習慣化しているもの
 
【評価の構造(例)】
※以下はOT評価記録のアウトラインの例です。実際の記録は現在のデイリーを改変するなどしてください。
1. 基本情報
年齢、性別、主疾患とその経過
入院歴、現在の生活環境(病棟内での過ごし方)
2. 初期面接内容
症状の自己理解(「病気のこと、どう思ってるか」など)
日課についての語り(朝何時に起きて、日中はどうしてる?)
興味のある活動、やってみたいこと
他者との関わりについてどう思っているか
3. 作業観察
手工芸や調理などへの取り組み方
開始・継続・完遂の様子
作業の意味づけ(「楽しい」「面倒くさい」など)
他者とのやりとりの観察(言葉かけに反応するか、自発性があるか)
4. 認知・精神機能(簡易チェックでもOK)
時計描写テスト、記憶スパン、注意力の簡単な検査
不注意・逸脱・混乱があるかどうか
5. 考察とOT的視点
長期入院による生活習慣の固定化、意欲低下の傾向
作業活動では集中力が続くが、持続には支援が必要
安定している今だからこそ、興味や役割を取り戻す取り組みが有効か
 
【具体的な評価ツールの例】(可能な範囲で)
VQ(バリューズ・クエスチョネア):価値観と行動の一致度を見る(MOHO系)
OSA-II(作業遂行自己評価):自己評価を通じて作業の意味づけを知る
観察記録シート:OT活動中の反応を細かくメモする
生活リズム表:1週間分の記録をつけてもらう or 聞き取りで作成
 
評価の最終的なまとめ方の例(口頭発表やレポートに使える)
「○○さんは現在、病棟内での生活に大きな問題はなく、一定の生活リズムと安定した対人関係を保っています。しかし、活動への関心は限定的で、作業への参加も職員の声かけをきっかけとしています。作業中は集中力は見られるものの、持続力や主体性の面で支援が必要です。今後は、本人の興味関心を引き出す活動を通して、生活に楽しみや意味を見出す支援が有効と考えます。」
 
 
 
例)頭部外傷後の高次脳機能障害(記憶障害など)を抱える慢性・陳旧例の場合
 
統合失調症とはまた異なる観点で評価が必要になる。
この場合の評価では、「何がどこまでできるか」だけでなく、どんな工夫をすれば、その人らしい生活を再構築できるかという視点がとても重要になる。
 
【評価のポイント:高次脳機能障害・慢性期編】
評価領域 具体的なチェックポイント
記憶障害 直後・遅延再生、日常的な物忘れ、予定管理、再学習可能性
注意障害 持続・選択・分割注意、疲労の出方
遂行機能 段取り・見通し・柔軟性、問題解決能力、自己モニタリング
行動と感情 易怒・脱抑制・意欲低下、感情のコントロール
日常生活動作 ADL/IADLの自立度、エラーの傾向、代償手段の使用
社会的行動 他者との距離感、協調性、自己中心的な言動の有無
作業遂行 活動中の集中力・理解度・指示の入り方など
 
【評価の構造:実習生がとれる構成の例】
1. 基本情報
外傷の時期・原因・部位(右?左?前頭葉?など)
後遺症の主な症状と現状の支援状況(家族の関与・福祉サービス)
2. 初期面接での評価観点
「事故(や怪我)のことを覚えていますか?」
「日常生活で困っていることは?」
「予定をどうやって覚えていますか?」
感情面のコントロール(「イライラしやすい?」「泣いたりする?」など)
→ 可能なら、家族やスタッフからの補足情報も必須です(自己認識のズレがあることが多いため)
3. 作業中の観察ポイント
活動の手順を覚えられるか
指示の理解と実行の間にズレがないか
エラーに気づけるか(自己モニタリング)
フィードバックにどう反応するか(受け入れられるか)
 
【使用可能な評価ツール例】
ツール名        内容と活用法
RBMT(Rivermead 行動記憶検査)  記憶の実用性をみる。施設にあればぜひ活用。
FAB(前頭葉機能検査)        遂行機能を手短に把握可能。
注意機能検査(CATなど)     簡易的でも良い、数字の読み取りなどで可
作業観察チェック表         OT活動中のエラーや支援の要否を記録
タイムスケジュール表       一日の予定が立てられているか、記憶の補助                    手段の有無
 
【評価まとめ方の例(口頭発表やレポート向け)】
「○○さんは頭部外傷後、記憶と注意力に障害を残しており、活動中にも作業手順の忘失や指示の取り違いが見られます。しかし、作業自体に対する興味や参加意欲はあり、支援者からの声かけやメモなどの代償手段を取り入れることで、活動を継続することが可能です。現在の生活では一部見守りや手順の補助を要していますが、自立度を保ちながら過ごせており、OTの目的としては『活動参加を通じた遂行機能の維持と補償手段の定着』が望まれます。」
 
??【実習生としてのアプローチのヒント】??
作業前に何をするかを一緒に確認→途中で確認→終了時に振り返り
 ⇒ 遂行機能や記憶の様子がよく見えてくる。
 
「○○さんって、何が好きそうだと思いますか?」
 ⇒ 興味が定着していることが、支援の入り口になる。
 
記憶が曖昧でも、安心して活動に取り組める環境づくり
 ⇒ 評価は“試験”ではなく、あくまで生活支援の視点から捉える。
 
                        以上、留意しながらがんばって〜