生活機能障害への入院後からのアプローチ例 | |||
生活機能障害の例 | 具体的関与や援助など | 根拠 | 操作・介入時の留意点 |
自己同一性;アイデンティティ1 | OTの日課や手続きなどについて簡潔で分かりやすく説明し、その環境が安全であることを患者に保証する。 | 周囲の状況がよくわかると、脅威が少なくなる。 | 知覚の機能障害に対しては、外的刺激のコントロールを慎重に行い接する。 |
自己同一性;アイデンティティ2 | 自分自身や他者を傷つけないように保護する。自己破壊衝動行動に使われそうな物品は別の場所に移す。 | 患者の安全が優先される。自己破壊の考えは、幻覚や妄想にもとづくものかも知れない。 | 患者の安全を確保するために、作業や物理的環境、危険物などの物品管理が行われる。 |
自己同一性;アイデンティティ3 | もし、患者の行動があまりにも奇妙で、他の患者に混乱や危険を及ぼすようなら、その集団から患者を別の場所に移す。 | 患者を集団の中に置くことから得られる利益は、その集団の安全と保護の必要に比べればはるかに少ない。 | 患者の混乱が他患者の混乱を招きやすい。このことが本人だけでなく周囲の患者への治療上の不利益となる。双方の心理的安全の確保に努める。 |
自己同一性;アイデンティティ4 | 他の患者達が、その患者の「奇妙な」行動を受け入れられるように援助する。必要に応じ、患者グループに対して簡潔に説明する。 | 他者のニーズを知ることは、患者グループにとっても有益であり、また共感を示すことでその患者を援助できる。 | 周辺他者や集団の準備状態への介入は、治療環境の調整として捉える。 |
自己同一性;アイデンティティ5 | 他の患者達のニーズに配慮する。問題の患者に数人のスタッフの手が取られるときでも、最低一人は他の患者の援助に当たることが出来るように計画する。 | 他の患者達も、彼らなりのニーズと問題を抱えている。「最も具合の悪い」患者にのみ注意や援助を向けない。 | 他の患者の欲求や問題点、その変化(変動)を常にミーティングなどを通じて確認し、必要に応じてOT記録に記載する。 |
自己同一性;アイデンティティ6 | 他の患者に対しては、彼が言語的にも身体的にもその患者の脅威となるようなことは何もしていないこと、患者の脅威は病気の結果であることを説明する。 | 他の患者達は、その患者の言語的、身体的脅威が自分たちに関係があると解釈し、自分がその脅威を引き起こすようなことをしたと感じてしまうことがある。 | 自我境界が不鮮明である患者ほど他者の言動による自分への情緒的影響を処理できない。自我境界の脆弱な患者に対する援助や保護が必要である。 |
自己同一性;アイデンティティ7 | 患者が自分で行動をコントロールできないときは、行動に制限をかける。患者を罰する目的で制限を設けてはならない。 | 患者が内的コントロールを効果的に活用できないときは、外部からの制限が必要となる。効果的な行動が増えれば、当然、容認されない行動は減少する。 | 作業の物理的・人的環境の整備(騒音や他者の関与が少ない)や、治療構造と枠組みを明確にする。 |
自己同一性;アイデンティティ8 | 周囲の過剰な刺激を減らす。精神病症状が未だ活発な時期は、運動、競争的な活動、あるいは大きなグループ内での活動に不用意に参加させない。 | 患者は過剰な刺激を処理できない。環境は患者にとって驚異的なものであってはならない。 | 作業種目の工夫をする→刺激の調整を密に行える、非言語的コミュニケーションを基本に据える、単純な工程、高い巧緻性を必要としない、中断しても再開しやすい、作業活動に閉じこもれる、自由度が高くなく枠の設定を密に行える。 |
自己同一性;アイデンティティ9 | 臨時薬の処方と、それを必要とする患者のさまざまなニーズを知る。 | 薬物は、患者が自分の行動をコントロールできるようになるために有用である。 | 変調や臨時薬処方の情報を得る。心身の機能が生活機能に与える変調と臨時薬の影響を把握する。 |
自己同一性;アイデンティティ10 | 必要に応じ、人物、場所、時間の見当付けを行う。 | 現実を繰り返し提示することは、患者にとって具体的強化となる。 | 見当付けは、身体感覚と結びつき身体図式再構築の一助となっていくようにプログラムしてゆく。 |
自己同一性;アイデンティティ11 | 患者が言語的に対応できなかったり、行動がまとまらないときでも、一緒にいる時間を作る。セラピストの関心やいたわりを伝える。 | セラピストの存在そのものが現実である。言語的ないたわりが理解されない時でも、非言語的ないたわりは伝わる。 | 往々にして寄り添いは作業をこえて現実的対人関係を育む基盤となる。他患誘導時のベッドサイド訪問や声掛け、短時間の寄り添いなども利用できる。 |
自己同一性;アイデンティティ12 | 約束は実現できることに限る。その場しのぎの約束をしない。 | 「約束」を破ると、患者の不信感が増大される。 |
患者は、自分に頼れなくなる程に脆弱な現実世界に身を置いているからこそセラピストに信頼を寄せ頼りたいと欲している。そのこと自体を受け止めることが大切。 |
自己同一性;アイデンティティ13 | 安全の感覚を高めるために、患者の作業空間を制限する。 | 境界が不鮮明であったり、患者が制限を認識できていないと、不安が増強されてしまう。 | 作業空間の遮蔽や隔離、ついたてや目隠しの利用などを検討し試行することもある。物理的同一性の感覚は心的同一性と近しい。 |
自己同一性;アイデンティティ14 | 現実と非現実を区別できるように援助する。現実的な知覚は評価し、誤った知覚については、感情を交えない割り切った態度で修正する。患者との議論は避けるべきだが、誤った知覚を支持してはならない。 | 精神病の非現実性は強化されてはならない。現実こそが強化されるべきである。強化された考え方や行動は、今後頻繁に繰り返される。 | 誤った知覚を現実として抱えている患者であっても、彼の存在そのものを否定してはならない。Ex.「そんなふうだから、あなたはダメなのよ」:× |
自己同一性;アイデンティティ15 | 患者がおびえているときは、傍らに付きそう。手で触れることも時には治療に役立つ。 | セラピストの存在と接触は現実世界からの保証となる。しかしながら接触は、患者が自分の境界を侵されていると感じる場合には有効でない。 | 物理的距離は心的距離にも影響を及ぼしやすい。継続的な接触の活用は、あらかじめその患者における有効性を評価してからにすること。 |
自己同一性;アイデンティティ16 | 患者と話すときには簡潔、直接的、明瞭であること。 | 患者は複雑な考えを上手く処理できない。 | 簡単な構成的作業場面でも、作業要素の関連性が当然わかるはずと判断せず、一つずつ行い理解と実行の程度を確認する。 |
自己同一性;アイデンティティ17 | 単純で、具体的な話題にする。概念的あるいは理論的な話し合いはさける。 | 患者は抽象的な概念を処理する能力が損なわれている。 | 患者が理解したように見えても、あるいは「分かりました」といっても内心で混乱していることがある。十分な配慮と注意が必要。 |
自己同一性;アイデンティティ18 | 患者が現実を受け入れ、現実との関わりを続けることに役立つような作業活動を指導する。 | 現実との接触が増えれば、非現実への引きこもりが少なくなる。 |
「現実」は外的ものばかりではない。患者の身体に対する感覚、知覚や認識への感覚、運動や言動への感覚など内的現実もある。 |
自己同一性;アイデンティティ19 | 最初は、同一のスタッフに患者の担当をさせる。 | 一貫性が保たれることによって、患者は安心を得られる。 | 他の治療的枠組みにも一貫性を持たせる。同一性に対する段階付けを考慮する。 |
自己同一性;アイデンティティ20 | 1対1の相互作用から開始し、それに耐えられるようになったら小さなグループへと発展させる。(ゆっくりと進める) |
最初は、接触を制限した方が患者にとって抵抗が少なく、対処しやすい。 | 相互作用は、作業内容、担当者、周辺他者などとの間にも存在する。OTとの1対1関係ばかりを指すものではない。 |
自己同一性;アイデンティティ21 | 課題や作業手続きを設定し、これを維持する。課題や作業手続きに変更があるときには必ず患者に伝える。 | 患者は変化に適応する能力が損なわれている。適応するまでにかなりの時間を要する。 |
メモなどを利用して説明をした場合には、コピーをOT記録にも残しておく。 |
自己同一性;アイデンティティ22 | 現実的な目標を設定する。セッション毎や短期間内の患者の目標とセラピストの期待を取り決める。 |
非現実的な目標は、患者にフラストレーションをもたらす。セッション毎(短時間内)の目標は期間が短く、遂行することも容易である。 |
ここでの期間は、「今日(今)は、〜までやりましょう。」といった短いものからを指す。 |
自己同一性;アイデンティティ23 | セラピストが患者に何を期待しているかを患者に気付かせる。 |
患者はなにが期待されているかを知ってこそ、その実現を目指して行動することが出来る。 | ここでの期待は、OT目標達成の為の具体的期待(目的)のこと。患者-OTR間での話しのテーマや共有目標ともなる。 |
自己同一性;アイデンティティ24 | 患者に最初から選択を求めてはならない(「OTに行きますか?」「今、何かやりたいこととか準備がありますか?」)。そうではなく、指示的に働きかける(「OTの時間です、私と行きましょう」) →患者の意志決定能力 |
患者の意志決定能力が障害されているときに、意志決定を要求されるとフラストレーションに陥ることがある。 |
優しく保護的なつもりの声掛けが患者に選択を迫る脅威となることがある。わかりやすい態度で支持受容しながら行うシンプルな促しは、受け入れや拒否を決めやすい。 |
自己同一性;アイデンティティ25 | 患者が耐えられるようになったら、徐々に自分の責任を受け入れ、自分で意志決定できるようなチャンスを与えていく。 |
患者は、出来るだけ速やかな自立(自律)が求められる。責任と意志決定の場を徐々に増やすことで、患者の成功のチャンスは増大する。 | チャンスはオポチュニティ(機会・好機)として準備してゆく。 |
生活リズムと構造の乱れ、セルフケアの不足1 | 患者の身体的ニーズに注意を払う。整容、服装、身だしなみetc. |
患者は自らのニーズに気が付かなかったり、鈍感であったりする。 |
精神的ニーズを満たす能力を高めるためには、身体的ニーズが満たされていなければならない。 |
生活リズムと構造の乱れ、セルフケアの不足2 | 食物と水分の摂取パターンを観察する。摂取量と排泄量、毎日の体重をモニターし、記録することが必要な場合もある。 | 患者は、食物や水分の過不足へのニーズに気が付かなかったり、あるいはそれを無視していることがある。 |
体組成計(からだスキャン)の利用、OT中の身体感覚や身体イメージの確認などが利用できる。水中毒や脱水に注意する。 |
生活リズムと構造の乱れ、セルフケアの不足3 | 排泄のパターンを知る。排泄が規則的になるよう、臨時薬を使うこともあるためNsとの連携が必要である。 |
抗精神病薬の使用、食物と水分摂取の減少、活動レベルの低下などの理由で、しばしば便秘が起こる。 |
一方で痴呆化や薬物による尿失禁にも注意を払う必要がある。情報はNsやDrへ伝える。Ptに対してはOT中の対処などを話し合う。 |
生活リズムと構造の乱れ、セルフケアの不足4 | 課題については、短く、単純な段階に分けて説明する。 |
複雑な課題も、いくつかの段階に分ければ、患者は容易に遂行できる。 |
Nsとの連携で、生活習慣への援助となるようにする。 |
生活リズムと構造の乱れ、セルフケアの不足5 | 1回の指示は課題の一部分に対してだけ行い、明瞭で直接的な言葉で指示する。 |
患者は、一度に連続し、あるいは関連し合った段階や流れ(手続き)を覚えることが困難である。 |
例えば、櫛:持ち方、動かす方向、梳く順序。鏡:前から、横からなどを一つひとつ確認してゆく。 |
生活リズムと構造の乱れ、セルフケアの不足6 | スキルトレーニングでは、セラピストの期待を直接的に伝える。不必要な選択を求めてはならない。「準備のことを考えているのか、それとも身だしなみを整えたいのか」と尋ねるのではなく、「準備を始めて下さい」、あるいは「先ず、髪の毛を整えましょう」と指示する。 |
患者は選択することが出来なかったり、あるいは選択が拙劣であったりする。出来たことは称賛されることで強化される。 |
スタッフの指示や助言を受けたことのメリットを話し合うなどして、求援助スキルの具体的やり方をトレーニングしてゆく。OTでのスキルトレーニングは認知行動療法の理論に添って捉え、指示的生活指導や代理行為とは区別して援助し、それぞれの長所を利用してゆく。 |
生活リズムと構造の乱れ、セルフケアの不足7 | 済んでしまったことについて、その理由を尋ねるなどして、患者を混乱させない。 |
抽象的な概念の理解は困難で、それは課題遂行を妨げる。過去のことならなおさらである。 |
今ここで、「〜が良いね」、「〜を○○したらから良くなったね」。「難しいところがあった?」、「そうだね、ここのところは難しいところだね」などのやり取りをする。 |
生活リズムと構造の乱れ、セルフケアの不足8 | 作業の遂行には十分な時間を与える。 | 集中力が欠如し、注意の持続も短いために、患者は身支度をしたり、髪を整えたりするのに時間が掛かる。 | セラピストの都合や価値観だけで一方的に説明を加えたり、合理的に処理しようとすることが時間を急がせることになる。 |
生活リズムと構造の乱れ、セルフケアの不足9 | 課題作業をしている間は、患者を待つ。急がせてはならない。 |
急がせると、それがフラストレーションになり、患者は課題の遂行が困難となってしまう。 | 急がせることに治療的意味はない。職能向上訓練ではないのだから。必要なら予め長い訓練時間を設定しておく。 |
生活リズムと構造の乱れ、セルフケアの不足10 | 日常生活や適切な個人衛生を維持するように援助する。 |
清潔、良い香り、魅力的であることなどによって、患者の尊厳と健康の感覚は高められる。 |
日常生活の中でも、気づいたら褒めたり話題にしたりすることが大切。特に男性セラピストはセンスを磨こう! |
生活リズムと構造の乱れ、セルフケアの不足11 | 徐々に直接の手助けから手を引き、患者の身だしなみやセルフケアなどのスキルを強化するようにしていく。日常生活活動が出来るようになったときや、セルフケアを開始したときには、患者を賞讃する。 | 可能な限り早期に自立することが重要である。肯定的な強化は、これらの行動が再び現れる可能性を高める。 | セルフケアの充実は患者にとっての他者からの肯定的イメージ(自分が他者にどのように映っているか)を得やすくし、自信や自尊心へと繋がる。 |
社会生活適応、社会的孤立1 | 誠実な態度で接しながら関与や援助を行う。 | お世辞を言われると、患者は軽んじられていると解釈する。 |
人としての存在への尊厳を持つ。お世辞と称賛は別物である。 |
社会生活適応、社会的孤立2 | 責任を果たすこと、企画、スタッフや他の患者との相互関係など、患者が何かに成功したとき、必ずそれを支持する。 |
誠実で、真摯な賞賛を受け取れば、患者の自尊感情は修復される。 | 作業療法場面は、身体を機能的に使える(表現できる)場として、活動や参加の生活機能とも相互に功を奏するように準備されている。 |
社会生活適応、社会的孤立3 | 患者は価値のある存在であるということを、言葉だけで納得させようとしてはならない。 | 患者は根拠のない賞讃やお世辞に気がつき、かえって自尊感情を低下させてしまう。 |
患者が確かな行動を示したときに、セラピストは初めてそれを心から認めることが出来るようになる。患者が確かな行動を示すことが可能となるようにOTプログラムが計画・用意されている。 |
社会生活適応、社会的孤立4 | 患者にソーシャルスキルを教える。アイコンタクト、耳を傾ける、うなずくなどの具体的スキルについて説明し、実際にやってみる。世間話にふさわしいたぐいの話題や作業活動中のことをテーマにして話し合ってみる。 |
患者は、ソーシャルスキルについての知識をほとんど、あるいは全く持っていないことがある。モデルを示すことは、望ましいスキルに関する具体的な例を提示することになる。 | モデルはお手本ではなく、患者にとってわかりやすい見本として具体的に提示する。比較のための2つを提示をしても良い。スキルは強制でなく選択により自ら行動してゆけるように援助する。 |
社会生活適応、社会的孤立5 | 身だしなみの改善を援助する。必要ならば入浴や洗濯などをプログラムに入れる。 | 身ぎれいであることは患者の健康感覚や自尊感情を育む。 |
作業活動の準備や片づけなどもプログラムに組み入れることで、全体の流れや時間感覚に現実味を与えることが出来る。 |
社会生活適応、社会的孤立6 | 身だしなみについては、出来るだけ自分で責任を持てるように援助する。(患者が自力で出来ることを手伝ってはならない) |
患者の自尊感情を強化し、セルフケアの継続をはかるために、可能な限り自立が促されなければならない。 |
ちょっとした声かけや、身だしなみ啓発ポスター、化粧やファッション雑誌なども利用することができる。 |
参考文献 | 精神疾患の理解と精神科作業療法;中央法規2006 | ||
看護診断にもとづく精神科看護ケアプラン;医学書院1997 | |||
加世田病院リハビリテーション部http:www.geocities.jp/horiki_s/index.htm |